坂口安吾 「人生案内」
承認欲求を満たすためにSNSに投稿する人が少なくないと言われます。時代をさかのぼると、新聞の「人生案内」や「身の上相談」の欄が同じような役割をしていたようです。坂口安吾が自分の書いたものが新聞に掲載され、多くの人に読まれる気持ち良さに憑りつかれた男について書いた短編です。
森鴎外 「牛鍋」
グツグツと煮える牛鍋を囲んでいるのは、夫を亡くした女と幼い娘、そして亡き夫の友人。食欲の思うままに肉を喰らう男は、娘に肉を与えようとしません。人間の本能と欲望が、食卓でのやり取りから浮かび上がります。
梶井基次郎 「小さき良心 断片」
その場の勢いで間違いをしでかしてしまい街を彷徨う男の脳裏には、さまざまな出来事が浮かんでは消えていきます。ついさっきまで友人と愉しく飲んでいたのに、状況が一変してしまいました。追い詰められ、自己肯定し、昔を思い出し、男は逃げ続けます。
高村光太郎 「人の首」
彫刻家でもある高村光太郎が、電車の中で人間を観察します。人々の顔を見ては面白さを感じ、魅力を発見し、人間を発見していく様子が興味深く描かれます。見知らぬ少女の顔をまじまじと見てしまい、のちにバツの悪さを感じる様子など可笑し味を感じさせる随筆です。
山本周五郎 「酒屋の夜逃げ」
以前は近所の商店の御用聞きが家々を回って、日ごろの暮らしに必要なものの注文を取り配達してくれました。支払いはつけで月末や年末に払ったものです。山本周五郎も馴染みの酒屋で頼んでは、後でまとめて払うつもりが懐ぐらいと折り合わず、酒屋の主人の人の良さに甘えて、ついつい支払いをあと伸ばしにしてしまいました。そのうち酒屋がつぶれてしまい…。